漆について



漆の樹

わが国の漆器や漆芸には、なくてはならない漆の木。植物の分類からいえば、被子植物の双子葉植物で、ウルシ科に属しています。
世界中に70余属、約600種以上もあるといわれており、その大部分は東南アジアに多く分布しています。
漆の木は、高さ十数メートル、太さは40センチにもなる落葉樹で葉は4.5月ころに発芽します。そのつき方は 互性、花は風媒花で5月から6月にかけて黄緑色の香り高い小花を咲かせ、1房に密生します。
郊外や山に行くと、同類の「はじうるし」や「やまはぜ」「やまうるし」「つたうるし」が、秋には美しく紅葉します。樹皮は灰白色で、その樹皮に傷をつけて「生漆」を採取します。特に国内産の「漆」は上質で、蒔絵、キンマ等の制作には、日本産「漆」でなければ良い作品ができないとさえ言われています。




漆樹の分布

〈日本の漆の産地〉
日本産の漆樹は、北は北海道から、南は九州までに及んで栽培されています。古くは沖縄地方にも産し、成育区域は広く日本全国に分布して,温帯地方に属しています。古来から、吉野漆は良質で有名でしたが、現在では衰微してしまい、東北地方が主産地となっています。
〈中国の漆の産地〉
中国産の漆樹は、楚西産地と福建脊梁地、それに江西、湖南脊梁地帯などの山地から産しています。ことに湖北省、四川省、陜西省、湖南省、貴州省などの山々が重要栽培地なのです。これらの山地から生産される漆は、主な産地名を付されたものが品名となって市場に出荷されています。
〈ベトナムの漆の産地〉
ベトナム産は、トンキン漆、アンナン漆ともいわれ、普通北ベトナム地方のものをさしています。この産地はトンキン州を中心とし、ブートー、永場、山西、宣光などの熱帯地方に属し、中国の漆同様に生産名を付されたのが品名となって市場に出荷されています。

漆樹の採取



漆樹から漆液を採取する方法は、傷のつけ方滲出する液の集め方によって、日本式、中国式、ベトナム式、朝鮮式などに別れます。
たとえば日本式には、1年間の採取期に、幹の全面に傷つけを行ってとる方法と、2〜3回にわけて連年、隔年毎に傷を付けてから採る方法の2種類があります。前者を殺掻(ころしがき)法または掻殺(かきころし)法といい、後者を養生掻法と呼んでいます。
いずれの取り方にも一長一短がありますが、わが国の場合は、ほとんど殺掻法です。
漆樹は毎年6月頃になると、葉が全部茂り、新芽も枝になって成長します。
葉が出尽したころから漆液の採取にかかります。採集の期間はこの6月頃から11月頃までです。




漆樹が塗料になるまで

漆液は、幹や枝が傷つけられると、樹自らその傷口をふさごうとして噴き出し、それが外気(酸素)に触れて硬化して自然治癒の絆創膏の役目をするのです。この漆液の特性を生かして、漆の木肌に傷を付けて、滲みだす漆液をかき集め、精製して塗料としたものが漆です。
木から採取したままの天然の漆液を「アラミ」といい、この「アラミ」の不純物を濾過したままの漆液を「生漆(きうるし)」といいます。これを太陽熱か炭火で水分を蒸発させながら、ゆっくりと混ぜ続けると、次第に光沢が出てアメ色の半透明の油状になり、肉厚に塗ることのできる漆になります。こうして精製したものを透明漆、木地呂漆と呼んでいます。この透明漆に適当量の顔料を加えると色漆になります。




漆樹の特質

漆は天然塗料のうちで、もっとも優れた特性を持った塗料です。漆の成分の8割は「ウルシオール」と呼ばれるもので、漆の特殊な乾き方や、乾いた後の漆をこのうえもなく堅牢にさせることや、漆かぶれの現象などの主因となっています。一般的に漆は梅雨時が一番乾きやすく、11月〜3月頃迄は乾きが悪いのです。漆が「乾く」ということは、漆が多量の酸素を吸入して、その酸化作用によって液体から固体に変化するということなのです。つまり、洗濯物を日に当てて水分を蒸発させる乾きとは、全く意味が違うのです。むしろ、適当な湿気を与えるとその水分が蒸発して、その中の酸素を漆に給与し、漆の酸化作用を促進させて乾きを早めるのです。この不思議な漆の乾き方が漆芸の場合にさまざまに利用されています。
また漆は一度乾いてしまうと実に強靱になり、手軽には溶けなくなります。アルカリ、酸、塩分、水分、熱、電気、ガラスや陶器を溶かすフッ化水素にも平気です。ただし紫外線に当てると、他の塗料同様に抵抗力が弱くなり劣化します。

漆の接着力

漆は非常にすぐれた接着力を持っています。陶器の割れ目に塗り接着させるのに使う麦漆(むぎうるし)や、磁器の場合に用いるのは少量の膠(にかわ)を入れた膠漆(にかわうるし)などがあります。
その他に染色方面でも漆が利用され、小紋や浴衣を染めるのに必要な型紙を作るとき、文型を細かい糸で丈夫につなぐのが漆です。

漆によるかぶれ

漆の主成分「ウルシオール」には毒性があります。この「ウルシオール」が完全に乾いてない間は毒性を発散して、その人の体質により漆性皮膚炎をおこしてしまうのです。漆は完全に乾いてしまえばどんなにかぶれる体質の人が漆器にさわってもかぶれたりすることはありません。手で触る状態に表面乾燥していても、中から「ウルシオール」の毒性が発散されていて空気中に漂い、人の皮膚の気孔にはいってかぶれの原因となるのです。
しかし漆かぶれは、化学薬品などをやたらに使用せず、薬をつけなくとも局部を清潔にしていれば、一週間程度で治ります。


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